
レーザー(LASER)は簡単に言ってしまえば光の一種で、英語の「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字をとったものです。日本語に訳すと「誘導放出によって増幅された光」ということになります。
普通の光との違いは、「単一の波長による単色性」、「同位相による干渉性」、「光が集中して拡散しない指光性」の3つです。プリズムを通して見ると、太陽の光は赤から紫までの7色に分かれますが、レーザーはそのうちの1色だけの光を取り出して増幅させたものです。また、太陽光は360度すべての方向に拡散しますが、レーザー光は一点に絞り込みます。
レーザーの出現を予言したのは相対性理論で有名なアインシュタインでした。1960年にアメリカの科学者のメイマンが、世界で初めてルビーレーザーの発振に成功し、1964年にはゴールドマンによって赤アザの治療が行われ、1968年にはレーザーメスとして活躍している炭酸ガスレーザーが発明されています。日本には1975年に導入されました。
レーザーの性質は概ね次の2つの要素、波長とパルス幅によって決定されます。
波長
波長とは光の長さのことです。太陽光は7色(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)に分かれます。これは我々の目に見える範囲の「可視光線」で、これ以外にも赤よりも波長が長い赤外線と紫よりも波長が短い紫外線なども含んでおり、太陽光とは色々な波長が集合しているものと言えます。
レーザーは様々な波長のうちの1つだけを取り出したものです。波長が違うと光の性質が違って来ます。
例えば紫外線は殺菌作用やメラニン色素の生産を促進させますし、赤外線はこたつや石焼ビビンバの食器のように物を温める熱作用があります。また、一般的には波長が短いほど深達度が浅く(皮膚表面にしか作用しない)、波長が長いほど深達度が深く(皮膚の深部まで作用する)なります。
パルス幅
パルス幅とはレーザー光を照射している時間のことです。写真を撮る場合のシャッタースピードのようなものです。パルス幅は、0.1秒とか100万分の1秒というように、その用途によって様々です。
最近、このパルス幅を10億分の1秒単位で制御できる「Qスイッチ」が開発されたために、従来は治療が困難だった太田母斑や入れ墨などのレーザー治療が可能になりました。また、一部のレーザーではレーザー光が途切れない連続波を用います。
美容外科、形成外科で使われる主な医療用レーザー
CO2(炭酸ガス)レーザー
赤外線レーザーの一種で、その波長は10.6マイクロメートルと可視光線よりもずっと長く、水分に反応して熱エネルギーに変換されるという性質があります。レーザーメスとして使われたり、ホクロやイボなどを取るために使われます。また、パルス幅を短くしてしわ取り用レーザーとしても使われています。
ルビーレーザー
宝石のルビーを用います。可視光線の一部である694nm(ナノメーター)という波長を有しており、メラニン色素に反応する性質があります。シミやアザを治療するレーザーとして日本では最も普及しているレーザーです。
アレキサンドライトレーザー
アレキサンドライトという宝石(日本ではあまり知られていないがアメリカではダイアモンドよりも高価で人気が高い)を用いて755nmという波長を出します。このレーザーもやはりメラニン色素に反応する性質があり、シミやアザの治療の他にもパルス幅を長くして脱毛レーザーとしても普及しています。
Nd-YAGレーザー
ネオジウム・ヤグを用います。これはイットリウム、アルミニウム、ガーネットという3種類から成る結晶YAGにネオジウムNdを混ぜたもので、1064nmという波長を出します。
波長を半分に変換できるKTP結晶を組み込んで、532nmの波長を出すことができるものが主流です。532nmの波長は、メラニン色素に反応するとともに、ヘモグロビンの赤い色素にも反応しますので、シミやソバカス、赤アザの治療に使用されます。
Er-YAGレーザー
前述のYAGにエルビウムErを混ぜたもので、2936nmという波長を有しており、これは炭酸ガスレーザーと同様に水分に反応します。ニキビ跡の凹凸や顔面のしわ取りに使用します。
ダイレーザー
色素レーザーとも呼ばれ、アルコールに色素を溶かしこんだものを発振体としており、585nm付近の波長を出します。ヘモグロビン(血液中の赤い成分)に反応する性質がありますので、赤アザや血管性疾患の治療に用いられます。
ダイオードレーザー
半導体を使います。理論的には半導体の性質を変えることにより様々な波長のレーザー光を作り出すことが可能です。その意味では現在もっとも注目を集めているレーザーです。美容外科、形成外科分野では800nmという波長のものを使ってメラニン色素に反応する性質を利用して脱毛に使用されたり、532nmの波長のものを使って毛細血管拡張症の治療に使用されています。
皮膚の構造と病変の位置
皮膚は表皮と真皮という2枚のものからできており、上にあるものが表皮で水膨れした時などに1枚ペロッと剥けてしまう部分で、0.1〜0.2mm位の厚みしかありません。いわゆる角質はこの表皮に含まれます。その下が真皮で厚いところでは4〜5mmの厚さがあります。真皮の80%位はコラーゲンでできています。
色素が表皮にあるのか、真皮まで達しているのか、色素がメラニンなのか、血管のヘモグロビンなのか、入れ墨なのか、などの条件によって使用するレーザーの種類や治療方法が異なってきます。
[メラニン系疾患]
シミ(老人性色素斑)、ソバカス
これらは老化や紫外線による表皮のみのメラニン色素の沈着です。肩や背中のシミでは表皮だけではなく真皮に迄メラニン色素が沈着している場合があります。Qスイッチの付いたNd-YAGレーザーやルビーレーザーで治療します。当院では皮膚深部へのダメージが最も少ないNd-YAGレーザーを採用しています。
太田母斑
これは生まれつき、または思春期頃(遅い方では30歳過ぎから)に現れてくる黒〜紺、茶褐色のアザで皮膚の内の真皮にメラニン色素が沈着している状態で、Qスイッチの付いているNd-YAGレーザーやルビーレーザー、アレキサンドライトレーザーで治療しますが、波長の関係で一番深部まで効果が及ぶNd-YAGレーザーを当院では使っています。
蒙古斑
生まれつきお尻にある青いアザが成人になっても消えないで残っているものです。状態としてはやはり真皮にメラニンが沈着していますのでQスイッチのNd-YAGレーザーで治療します。この蒙古斑がお尻ではなく背中や腕に見られるものを異所性蒙古斑と呼び、同様に治療できます。
扁平母斑
生まれつき、または思春期から現れてくる茶色いアザで、状態は表皮にメラニン色素が沈着しているもので、シミやソバカスと同じものです。当然、治療方法も一緒ですが、一番の違いはこのアザは再発の可能性があります。治療前よりも悪化してしまうということはまずありませんが、治療する前から必ず100%治るとは断言できません。いきなり全部を治療するのではなくアザの一部分に試しにレーザーを照射してみて、その結果を確認してから全体的な治療を行う方が安心です。
肝斑
これはホルモンの関係で現れるシミで、やはり表皮にメラニン色素が沈着している状態です。出産後などに両頬に対称的に現れるので普通の老人性のシミと区別できます。また、経口避妊薬のピルの長期服用でも現れます。これにはレーザー照射は行わずに、内服薬やメラニン抑制クリーム、ケミカル・ピーリングで治療します。
色素性母斑
いわゆる生まれつきの黒っぽいアザです。これもレーザー照射で治療が可能ですが、皮膚のかなり深い部分まであるアザでは完全には取りきれないことがあります。また、アザが10cm以上に及ぶ大きなものでは将来的に悪性化する可能性(皮膚癌)もありますので、レーザー治療以外の切除縫縮、皮膚移植なども選択肢の一つとなります。
ホクロ
生まれつきにはなく、3〜4才頃から生じて次第に増えてきます。明らかに盛り上がっているものは炭酸ガスレーザーで平らにしてしまいます。ホクロでは根の深いタイプがありますので、そのようなものでは炭酸ガスレーザーとQスイッチレーザーを組み合わせて何回かにわけて治療します。
[ヘモグロビン系疾患]
赤アザ
血管腫とも呼ばれており、生まれつき血管が密集している状態です。これは赤い色(ヘモグロビン)に反応するダイレーザーを使用して治療します。しかし、現在では生れた時点でレーザー専門病院を紹介されるなど、成人になるまで未治療という方は少なくなりましたので、一般的な美容外科クリニックではこのダイレーザーは殆ど置いていません。
毛細血管拡張症
これも血管が拡張しているために一本一本透けて見えたり、いわゆる「赤ら顔」のように頬が赤く見えてしまう状態です。ダイレーザーやダイオードレーザーを使用します。
[その他]
入れ墨
入れ墨は真皮にまで色素が入っていますので、Qスイッチレーザーで治療します。ごく色の薄いものでは1回で目立たなくなることもありますが、平均的には5回程度の治療回数がかかります。また、黒以外の色(黄色、緑、青、紫など)ではもっと治療回数がかかったり、完全には消しきれない場合があります。入れ墨の色素によっては金属(水銀など)を含んでいるものがあり、レーザー照射によって逆に変色してしまう可能性もあります。
アートメイク
これも入れ墨と同じ状態です。全部を消さないで太過ぎたアートメイクを部分的に細くすることも可能です。
外傷性の入れ墨
交通事故等で細かい砂利などが皮膚内に入り込んだままになった状態です。これもQスイッチレーザーで治療します。
ニキビ跡、しわ、ワキガ・多汗症など
レーザーはアザなどの色素性疾患の他にもニキビ跡を平らにしたり、目の周りのしわを取ったり、ワキガ・多汗症を軽減させたり、という用途にも使用されています。
レーザー以外の治療方法も選択できます
レーザーといっても、全ての面で一番優れているかと言うと、そうとばかりは断言できません。治療が終了するまでに期限がある場合や皮膚の深部まであってレーザー単独では完全に取りきれない場合などには次に挙げる方法も選択できます。
切除法
病変部の皮膚そのものを切って縫い合わせてしまう方法です。傷は1本の細い線となりますので、目立ちません。大きなものでは2〜3回に分けて治療を行うこともあります。
皮膚移植
切除法では対処しきれない面積の大きな病変部が適応ですが、皮膚を取ってくる部分と皮膚移植する部分との1カ所に傷ができます。
エキスパンダー法
エキスパンダーという水風船の様なものを皮膚の下に埋め込んで、1〜2ヶ月かけて徐々にその中に水を注入して正常な皮膚を伸展させておいて(妊娠状態の様に)から一気に病変部を切除縫合してしまいます。
アブレージョン(皮膚剥削法)
グラインダーという電動ヤスリでもって病変部の皮膚を削ってしまう方法です。病変部が深い場合はどうしても傷跡となって残ってしまいます。
美容外科分野以外でも活躍する医療レーザー
美容外科分野以外でもレーザーは様々なところで活躍しています。ゴルフのタイガーウッズ、中島常幸、福嶋晃子らの各氏が受けたことで有名になった近視矯正手術では、角膜を削るのに紫外線レーザーの一種であるエキシマレーザーが使われています。
神経の痛みの緩和や血行促進の目的でもダイオードレーザーが使われています。また、耳鼻科関係ではイビキや花粉症の治療にNd-YAGレーザーが使われています。
|