『シワ伸ばしクリニック』
共立美容外科医師 浪川浩明 著
第1章 エイジングケアの中の美容外科の役割
※この本は2007年に書かれたものです。現在の治療内容と若干異なる場合がございます。
老いるとは何か?
老いは誰にでも等しく訪れます。男性にも女性にも、富める人もそうでない人も。ところで老いるとはどのように定義すべきでしょうか?草花が発芽し、成長し、蕾を付け、開花し、結実して枯れていく。ヒトの一生もこれになぞる事ができますが、子供が大人になることはまさしく成長であって老いとは言いません。
草花にたとえるならさしづめ枯れていく過程が老いでしょう。ではそれはいつから始まるのでしょうか?生物学的なピークを過ぎたあたりから老いは始まると考えていいかと思いますが、人間の場合外見上あるいは、運動機能、記憶力、精神活動など種々の生理機能のピークが一致しないため、正確に見極めることは困難です。精神活動においてはよほど特殊な場合を除いて20歳代は50、60歳代にはかなわないでしょうし、プロスポーツ選手は日々の訓練によって一般人に比べ体力のピークを20年近く長く維持します。しいて老いの始まりを語るなら、あらゆる事にこだわりをなくされた(気力が失せた)とご自分が感じた、その時と言えるかと思います。
エイジングケア
直訳すると「抗加齢医療」となります。近代医学には時代とともに目指す方向性に変化が見られます。
第一期は1970年頃までの「治療法の確立」の時代で、その頃までに今日行なわれる治療法の基礎はほぼ出揃いました。第二期が1990年頃までの「早期診断医療」の時代です。コンピューターの高度な発展により画像診断に革命的な進歩がありました。第三期は今日まで続く「予防医療」の時代です。
病気の原因が遺伝子レベルまで解明され発症する以前に解決してしまう試みです。こうした医学の進歩の結果、我々の寿命は飛躍的に延びました。人間の限界寿命(全ての病気が克服された場合の純粋なる臓器の耐久性能)は生理学上200歳くらいまでは可能と言われますが、現実的には現在から大幅に延ばすことは難しいと考えられています。
今後は今までのような、いかに寿命を延ばすかといった量の充実から恐らく生活の質の向上、すなわち「しあわせ医療」に目標は大きくシフトする事と思われます。エイジングケア医療はまさしくそのさきがけといえるでしょう。
前述しましたが訓練によってプロスポーツ選手が体力のピーク期間を延長できるように、学術的手法によってあらゆる生理機能のピークの延長を図ったひとつの体系がエイジングケア医療です。
主に手術によって外見をピーク時の状態に可能な限り回復させる美容外科治療の他に、ピーリング、レーザー照射などの美容皮膚科治療、サプリメントの摂取やホルモン補充、免疫強化、はては蓄積した老廃物の排除(宿便に対する腸管洗浄など)というような内科分野まで広大な裾野に展開しています。
外見の老い(シワ、タルミ、シミなど)
エイジングケアが人生におけるもっとも活動的に振舞える期間の割合を医療によって増進させ、それを通して人生の質そのものの向上を目的とすると申しましたが、それは外見においても当てはまる事です。
あるひとつの例を紹介しましょう。患者様は60歳代半ばのご夫人です。当院にご来院になる1年前に6歳年上のご主人様を癌でなくされております。ご主人様の闘病はかなり長かったそうです。
それもあってか受診時の印象は実際の年齢より老けて見えました。自発的な受診ではなく、お嬢様に「お母さんはこれまで頑張ってきたのだから、これからは自分のために楽しみなさいよ。」のひと言で何かしようと思われたそうです。
しかし鏡に映るご自分の疲れ切った容貌を見て、ここからどうにかしなければ何も始められないと手始めに外見のエイジングケアを希望されたのです。フェイスリフトという手術を施しました。見違えるように若々しくなられたご婦人は自信を取り戻され社交的にもなられました。その後、半年の間に3度も海外旅行にお出かけになられ、写真に撮られるのが嬉しいと律儀にもその都度、写真絵はがきをお送りくださいます。
このように外見とは内面にも直結し、生活そのものまで規定するのです。腰を曲げて杖をつかれてようやっと歩いていたような方が、外見を改善しただけで歩き方までシャキッとされるというような症例や抑うつ傾向の改善をしばしば私たちは経験します。
美容医療の果たせる役割
美容医療がエイジングケア医療の枠組みの中で果たせる役割は見かけの改善です。ただし見かけが変わる事で自信や気力が回復し、精神面のみならず代謝機能など生命現象の本質の部分へも好影響をもたらす事は実証されております。
「病は気から」ということわざもありますが、「若さも気から」なのです。本質的に若さを実感できるのは外見ですので、この部分は決しておろそかに考えるべきではないでしょう。ところで現在は優れた化粧品やメイクアップの技術もあります。果たしてそれではダメなのでしょうか?いいえダメではありません。
むしろ積極的に活用すべきだと思います。ただし他の美容手術同様、効果の普遍性や継続性、さらには一定水準を上回る期待に対しては美容医療でなければ実現不可能です。この美容医療にも患者様個別の要求に応じられるレパートリーが各種用意されています。
手術を受ける際の心得
美容医療は一定水準以上の効果を提供できます。現在の技術によって最大で見かけ上20歳くらいのエイジングケアを図ることは可能です。ただし効果はあくまで個々の患者様の現在の老いの状態や身体的な特徴によって決定されますので、極端な話、30歳の方に施して10歳代の女学生風に変身させられるというものでもありません。
また全てに当てはまる事ですが「中庸」すなわち何事もほどほどが肝心で、例えば頬や首のたるんだ皮膚を常識を逸脱するほど過剰に引っ張ったりすると目や鼻などまで影響し、結果かえってバランスが悪くなる事態も起りかねません。そしてエイジングケアを果たした後のご自分の社会的な位置を冷静に考えておくべきでしょう。ご自分の周りの人達に手術がバレてしまおうが、何を言われようが最大限エイジングケアたいと、強い意志を通せる覚悟をお持ちになれないのであれば高望みは禁物です。患者様の個別の要求に応じられる手術法のレパートリーとはまさしくそのために我々が吟味し用意したグレード(手術費用の高低や内容の良し悪しではなくどの程度変化させるかというもの)バリエーションです。
さて、患者様の中にはエイジングケア手術をまるで魔法のようにあるいはマッサージ感覚で甘くお考えになられていらっしゃる方が少なからずいらっしゃいます。これは商業主義に偏向したマスコミ広告の甘言や無分別なインターネット情報に陽動されての事と思われますが、現在の手術は科学的根拠に基づいて手技上の洗練や安全の確保が幾重にもなされておりますので、それこそ命懸けで臨まなければならないとか、術後の後遺症も懸念しなければならないというようなことはありません。その代わり手術の内容に関わらず、どんな治療でも1回のご通院で数日後には完成するというような手軽さもないことをご認識いただきたいと思います。
一般に一度に大きな効果やその覿面性をお望みの場合は組織に加わる処置が多くなりますので腫れや内出血、痛み(個人によって感じ方が異なりますが通常内服薬の使用で押さえられます)などは出現する傾向があります。一方ご年齢に対する改善効果はそこそこでも深いしわを目立たなくする程度の治療であれば上記のリスクはかなり抑えることも可能です。エイジングケア手術をお受けになる場合の心構えとはハイリスク(リスクと言っても腫れなどの一過性生理反応や目立たない位置への手術あとなど)にはハイリターン、ローリスクにはローリターンなのです。それを踏まえてご自分に最適な治療法をお考えいただきたいと思います。
目次
- 第1章
- エイジングケアの中の美容外科の役割
- 第2章
- たるみは引き上げなければ解消しない
- 第3章
- 切る手術
- 第4章
- 切らない手術(糸リフト)
- 第5章
- その他のしわ取り治療
- 第6章
- しわ伸ばしクリニックQ&A
- 第7章
- 共立スケール自己診断表